ボンヴィヴァン(伊勢外宮前 ボンヴィヴァン)

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プロフィール 河瀬毅 


■こだわり(09.06.18)


あなたのこだわりは何ですか? と、問われることがよくあります。話のきっかけとして海のものとも山のものとも分からない見ず知らずの料理人に対して、尋ねやすいフレーズなのでしょうね。
答える僕としては、少々考えます。
この人は僕からどんな言葉を引き出そうとしているのかということをです。
新鮮な魚が一番です!・・・と明るく答えてしまえば、「そうですよね。魚は取れたてに限ります。」
なんて、同調してくれて話が弾むものなのでしょうか?
しかし必ずしもそうとは言えないと思います。身がコリコリするほど新鮮な感触と香りを優先させる楽しみ方もあるし、ご存じのように寝かせて熟成を待ち旨味を乗せてから食べる味わいかたもある。
その魚は、網で獲れたのか、一本釣りで引き揚げられたのか、産地はどこなのか?
季節は?締め方は? こんな風にどこまでも掘り下がってしまうものなのです。
僕は、料理している魚の出どこが100%分かっているし半分以上は、釣り人の顔も知っています。
それでもそれが、こだわりなのかと聞かれても少し困ります。
考え過ぎかもしれませんが、レストラン経営者にこだわりとは、と質問され、返ってきた言葉でどのように判断なさるのでしょうか?


食べ物で何が好きかと聞かれて元気よく寿司だと即答する人が居たとする。片方では、何でも美味しくいただくけど、やはり一番は、お寿司です。なかでも6月頃のしんこ(こはだの子)や、11月のいくらが 楽しみ。
トロや冬の三陸アワビ、夏の志摩の黒鮑も宝くじが当たったら是非食べてみたいものですね。
などと幸せそうに語る人もいる。そんな御仁は、米や合わせ酢、酒にも哲学を持っているでしょうね。
まして、それを粉ワサビを使い、煙草を吸っている職人が握るカウンターで楽しそうにつまんでいるとは、とうてい考えにくい。

しかしトロなどの話を聞くと、優雅に高級店へ通っている訳でもなさそうだ。
そんな人物が足繁に通う寿司屋なら知りたいし行ってみたいと思う。
何でも美味しくいただくと仰るなら、日本料理は、どうなんだろう。 イタリアン、フレンチでは、どのような料理が好みなのでしょうか? そしてこだわりは何なのか知りたくて初めて興味が湧いてきます。
きっと、気持ちよく美味しいものがいただける店を見つけて食事することがこだわりです。
なんてサラッと言うんじゃないかな?


都会の雑誌社から取材リサーチの電話が時々ありますが、自分の気持ちのまま答えることがいけないようで、よくボツになります。
担当の方々は、必ず何にこだわりを持っていますか?と尋ねます。それに対して、僕のこだわりと相手の望むものとがいささか食い違っているのでしょうね。


店内も建物の周りの清掃も庭やバラも綺麗にしていたい。軒下に置く自転車は雰囲気に合うように慎重に選んでいるし車も同じこと。部屋の内装のしつらえも家具やトイレの便器もマダムと二人で決めた。
テーブルクロス、皿、カトラリー、小さな塩こしょう入れに至るまで全て僕たちの宝物です。
スタッフの服装は下着(Tシャツ)の色、首のラインを注意しないと柄が透けて見えたり白衣からチラリとでも覗いてしまうと幻滅です。ズボンの黒さ加減、材質、スソまでの長さも大事。
靴は、紐、ゴムソールにいたるまで真っ黒なほうが仕事ではお洒落。 脇や口の臭い香水もエチケット違反。
髪形も化粧方法も店のムードに合わす・・。 でもそれがこだわりかと言うとそうではありません。
レストランを商う上での決めごとでしかないと思うのです。


接客は、心。技術や知識は、積み重ねと勉強により身に付いていく。 しかし、どんなにお客様から無理難題を言われても笑顔で最善策を見つけようと努力する子たちは、彼らの心を惹き付けてやまない。
料理へのこだわり。それを語り出すと冒頭の魚のようにキリが無い。
肉も野菜も素材合わせも調味料もスパイスもチーズもワインも食前酒もエスプレッソにも山ほどの話しがある。デミカップへの思い、食後酒、会計のタ イミング、どこまでのお見送りの仕方がお客様にとって心地良いものなのか・・・・書き出すと果てしなく長くて、とてもじゃないが突然鳴った一本の電話でどこまで話し、何をアピールしてよいのやら・・・迷ってしまう。
しかも一度でも手に入れたり実践して習得してしまったら、もうすでにこだわりではなく当たり前なのです。スタートラインの水準がちょぃと上がったぐらいなもの。そんなことより、いつもリラックスして接客したり、やる気満々で料理に臨むスタッフの気力の源を生みだす環境作りを大切にしたい。
自然に浮かぶ笑顔、キラリと光る瞳。全てのお客様に情熱と愛情を降り注ぐ愛おしいスタッフたち。
例えメンバーが徐々に交代してもボンヴィヴァンは永遠に不変。それが僕のこだわりです。



 

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