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料理人の心(07.10.05) つい先日まで、暑い暑いと嘆いていた厨房は、めっきりと過ごしやすくなってきました。 ようやく、みんなが待ち望んでいた季節がそろりそろりと足音を忍ばせて、やってきたような気がします。 伊勢志摩の秋の始まり。 海のプランクトンをたっぷりと蓄えた、ふくよかな的矢(まとや)牡蠣は、ようやく出荷が始まりました。 伊勢海老漁も口開けです。乱獲しないように時期、漁具、漁法を制限して自然を尊ぶ。 赤い網にかかった伊勢海老は必死の力で網を抱え込み、容易に離そうとはしない。 そんな時、漁師達は網をつかんでいない別の足をキュっと自分の口にくわえるんだと聞きました。 すると、驚いた伊勢海老は思わず網を放してしまう。・・・人間は利口ですよね。 これってもしかすると、くすぐり作戦じゃないのかな?・・・なんか微笑ましくて一人クスっと笑ってしまいます。 強引に無理矢理引っ張って網から外さずに、ストレスを与えず魔法のように伊勢海老を操る志摩の漁師達。 彼らのお蔭で、足が揃い触覚が力強くビュッと伸びた赤黒い伊勢海老は、志摩の王様にふさわしい姿でボンヴィヴァンの食卓に登場します。 魚も野菜も同じ。健やかに力強く育った素材は、僕にとってはかけがえのない大切なパートナーです。 心を込めて料理したい。その心は、愛情のエッセンスや精神論ではありません。料理人の僕の魂の中にドーンと鎮座しているつっかえ棒 のようなもの。このお客様のためにと、鮮度の良い魚を選び、優れた材料を用意する。 手間隙惜しまず仕込みして、的確な調理技術で真心をもって料理するのです。 美味しい料理を口にした時あなたは、どのような反応をされますか?驚きのあまり言葉を失くしてしまったり、饒舌になっちゃうのかも知れません。それとも思わず涙が出てしまうくらい感激家さんだったりしたら嬉しいですね。 実は僕、笑っちゃったことがあるんです。 20年以上前のこと。ボンヴィヴァンのオープニングスタッフに浜口と言う男がいました。 後に志摩の安乗(あのり)で、ペンションかばかんを建ち上げて、今は鳥羽でレストランを経営しています。 若かりし頃にそいつと大阪のレストランに食事に行ったときの出来事です。 レストランは、心斎橋近くの通称アメ村あたりにありました。 その料理は、オマール海老とメロンのサラダ リカール風味、メロンのシャーベット添え。 そんなメニューだったと記憶しています。 茹でて生温かいオマール海老のぶつ切りに、メロン、ソルベ、アニス、ミント・・・えっ?うっそーっ! 何でこんな組み合わせに、僕は美味しいと感じてしまうの・・・?でも、理屈じゃないのかもしれません。 一口食べて、心がストレートに反応してしまいました。 ようするに、笑っちゃったのです。あとはただ、表情を崩し満面の笑みを浮かべて食べるだけ。 僕は、そのひと皿を食べた瞬間に、年下の天才シェフ和田信平を神格化してしまったのです。 足し算でもない、引き算でもない。ひとつひとつが絶対不可欠でまとまり、料理として完璧。 その当時から、只者ではなかったこのシェフがあれから20年以上大阪のフレンチを牽引していることが、 紛れもない無い事実です。 先日の夜、いつものようにミュゼ・ボンヴィヴァンの出口シェフと電話で話す中で教えてもらったことがありました。 「シェフ(僕のことです。)知ってますか?和田シェフのブログは、凄いですよ!」 どう凄いかは、おおよその察しがつきました。あれほどユーモアに溢れ、話題豊富。理知的な会話は定評です。 歯に衣を着せない痛快な話しも聞けるかも知れません。 でも、怪物和田シェフがナマなブログを書く事自体信じられませんでした。 出口シェフが興味を持って話し出すのをさえぎったのは、自分の目で読みたかったからに他ならなかったのです。 そして、パソコンを開けて検索すると、なるほど、彼の文章が見つかりました。 夢中で読破。 このブログは、なんて純粋でひたむきなんでしょう。雲上人(うんじょうじん)なんかじゃない。僕と同じ、もがき苦しむ料理人の姿がここにありました。 「私はフランス料理のファンです。」このコラムを読んで、正直、涙が出ました。 誤解しないで下さいよ。僕、ストライク以外は絶対クールなのです。泣き虫じゃありません。 でも、読み進むにつれ共鳴する部分が沢山あり、和田シェフの言葉の矢は、僕がキュンとなる心の中の芯の芯を みごとに撃ち抜いたのです。 僕はフランス料理とレストランを愛していて、一生を賭けてやり遂げなければいけない仕事だと思っています。 そして見返りの無いライフワークに少々疲れて軽い絶望感も抱いています。 しがみついてしがみついて、やっとここまで歩いてきたんですよ。でもゴールが何処にあるのかすら分からない。 今日の晴天が明日も続かない事は承知です。天国と地獄。経営者は未来を見据えながら毎日が草むしりの様に地道な闘いを続けなければいけない。 心を込めて料理しています。貴方様方をお迎えして家族のようにおもてなしをしています。 でも・・・どんなに素晴らしい食材で一生懸命料理をしても、心に響かないお客様にはしょうがありません。 じゃあどうするの? 何もしませんよ。頭を掻いて弁解はしないし、俺様の料理が気に入らないのかと、張り合うつもりもありません。 僕は生きてきた人生をかけて料理をしているのだから。自分の料理を信じています。 百人なら百人に喜んでもらえることが正しいのでしょうか? 僕の気持ちを見事なまでに西の横綱が代弁してくれました。 この後の言葉はSHINPEI通信からの引用です。 ’’あたらしいことは正しいのか? うまいことは正しいのか? かっこいいことは正しいのか? 営業が良いということは正しいのか? 思いはあるのか? 客は正しいのか? 美しいことが私の手からこぼれ落ちることがあります。 うっとりするような瞬間。誰のために作るわけではない。 美のために私の小さな才能が、光り輝く事があるのです。 美とは私の生きがいになります。 私はフランス料理のファンです。’’ 和田シェフ。僕はあなたのファンですよ。