ボンヴィヴァン(伊勢外宮前 ボンヴィヴァン)

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プロフィール 河瀬毅 


■1971 リアルタイム (06/06/26up)

17歳の夏に、心を奪われたことがありました。家を出て北海道の牧場に住み込んでいた頃のことです。
貴重な体験を重ねた後やはり高校に戻り大学を目指そうと結論を出して、青函連絡船に乗るためにいざ函館に。
月寒(ツキサム)で僕を拾ったセリカGTは、大音量の音楽と共に山あいを疾走していました。
君のために洞爺湖経由で苫小牧に行くよと笑うドライバー。いいんですか?支笏湖を抜けて行けば三分の一に短縮出来るのに・・・。いいんだよ、俺達ゃ急ぐ旅でもねえんだから。仙台行きのフェリーまでたっぷり時間もあるし。

・・・狭い後部座席。おまけに彼らの荷物があるもんだから体を折り曲げて、どうにか収まった・・・
それにしてもこの音楽はどうだ。窮屈な気分など忘れてしまいどんどん心が開放されていくのが自分でも分る。
しゃがれ声でむせび泣くようなシャウト。普通の高校生活が我慢出来ずイライラしっぱなしだった僕の心は、あっけなくジャニスジョップリンに向かってストンと落ちてしまいました。
この狂気的なギターを弾いてる人は誰ですか?
そっちはジミヘン。二人とも去年、ドラッグのやり過ぎで逝っちまいやがった。
えっもういない?・・・たった今、僕の心を奪った人は一年前に死んだ人。
そう知ってから聴くと、尚凄い。
スピーカーから飛び出して現れるんじゃないかと思うほどの執念の声。・・・ヤラレマシタじゃあ、このハーモニーの綺麗なバンドは?それは、クロスビー、スティルシュ、ナッシュ&ヤング。
略してCSN&Yって言うんだ。もっとも俺は、CSNよりもおまけみたいなY、ニールヤングが好きなんだよ。
哀愁帯びたヴォーカルがたまんねー。(案の定、翌年リリースしたハーヴェストは、全米No1になりました)
大音量。窮屈な後部座席。猛スピードのセリカGT。それでも僕は忘れないように必死で繰り返し繰り返したった今教えてもらった名前を呟いていました。
そう言えば、この間キャロルキングがタペストリーと言うLPを出したそうだ。これも凄ぇらしいぞ。
もっとも俺ぁまだ聴いてねえけどな・・・。
彼女がどんなアーチストなのかレクチャーを受ける間もなく,モスグリーンのセリカGTは、スピード違反でパトカーに追いまくられる羽目になりました。
RSワタナベのマグネシウムホイールにピレリーのチンチュラートを履いてるんだぞと自慢したドライバーは、さすがに速い速い。
君に迷惑はかけられないよと僕を落とすように路地で降ろし、あっという間に去って行ってしまいました。
名前も知らない。顔も忘れた。一生、接点のない人達。でも僅か数時間の内に僕は生涯を通して愛する音楽に
めぐり合いました。

キャロルキング・・・あの時、俺もまだ聴いてねーけどと言ったタペストリーを聴きました。
京都の4畳半の下宿。スタントンのカートリッジをそおっと下ろす。
ハイライトを吸いながら耳を澄ます。(若いときはヘビースモーカーでした。すみません)
と、いきなりのキーボードの演奏。
そして少し鼻にかかった独特の声。うーん・・・あの夏の出来事と同じように一瞬でやられちゃいました。
後は歌詞カードとにらめっこです。
(そういえば昔はこうして執念で聴いてたっけ・・・当時でもビートルズのポールマッカートニーの曲や、カーペンターズ、ポールサイモンなんかは軽く聞き流せたんですけどね)
ああ、私はどのようにして彼女の素晴らしさを伝えましょうか?
グラミー賞を4部門制覇して15週連続1位。なんて、実績を自慢してもしょうがないですよね。
か弱い女性の悲しみと苦悩を音楽を通して表現した実に見事なセカンドアルバムでした。
つづれおり。私の人生は、豊かで気高い色のつづれ織りと歌い、人と人との交わりのなかで生まれた
喜びや悲しみを色彩に例えています。
おのれから溢れ出る言葉で詩を綴り、イメージのままに曲を作る。
そして自分自身で歌い上げるシンガーソングライターの世界にどっぽりとはまってしまいました。
キャロルキングのアルバム、タペストリー(つづれおり)の中で、あなたはどの曲がお気に入りですか?
ソーファーラウェイ?君の友達?ウイルユーラヴミートゥモロー?(明日も私を愛してくれるでしょうか?)
僕なら、イッツトゥーレイトです。間違いなく僕の中でベスト5です。
ジャニスジョップリンのサマータイム、ジョーコッカーならアイキャンスタンドアリトルレイン。ツェペリンは天国への
階段。ボブディランのバックやってたザ・バンドはアイシャルビーリリースト。(頷いている方、友達になりましょうよ)
クリーデンスクリアウオーターリヴァイバル、グランドファンクレイルロード、もちろんローリングストーンズ、
ピンクフロイド。これら数珠球のようなアーチスト達。毛色は違いますがマービンゲイ、ギルバートオサリバンの
アローンアゲインはCMでよく流れていますね。

私が青春を過ごした70年から74年は、このような音楽だけでなく社会も刺激的な時代。
恐らく同世代の9割の連中が気づかず通り過ぎたこの狂乱の道を、
私はしっかりと踏みしめて歩ませていただきました。

そして、ひょんなことから踏み入ってしまった料理の世界。
ふと思うとオーナーシェフはシンガーソングライターのようなものかも知れません。
キャロルキングが歌い上げる歌がキャロルキングそのものであるように、
私も素材を見て仕入れして、あれこれ考えながら自分の料理という一皿の作品を生み出す。
そして誰かが感動してくれれば、なお嬉しい。

毎年、夏が来ると北海道の記憶が脳をよぎります。
料理人になるなんて夢にも思わなかったなあ・・・。
似合いもしないのに粋がってレイバンのサングラスをかけた17歳の痩せぎすの私。
ヒッチハイクするのにサングラスかけてる馬鹿がどこに居るか。気味悪がって誰も乗っけてくれる訳ねーだろう!
私を叱りながらドアを開けてくれたあのドライバーに今、逢いたい。


 

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