ボンヴィヴァン(伊勢外宮前 ボンヴィヴァン)

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プロフィール 河瀬毅 


■うましくに伊勢シェフクラブ(08.04.10)

お気に入りの酒場で、ワイングラスを傾けて友と語り合う。心からゆったりとする幸せな時間です。
上司でもない。同僚でもない。仕事仲間でもない。言わばただの料理人仲間。
同級生のようにくだけた雰囲気とは、違うので童心に戻って昔話に花は咲かないかも知れない。
年も違い、経験も異なる。まして同じ厨房で一緒に働いた事も無い連中がほとんどです。
そんな、ないないづくしの僕達が、ひょんなことから集結することになりました。言い出しっぺは誰かとか、牽引役は
どなたですか?なんて問われても、なんとなく自然発生したんです。としか言いようがありません。
何故なら、僕達は高らかにクラブの立ち上げ宣言をした訳ではないからです。

「たまには、みんなで飲まないかい。」

シェフ達は、孤独な独裁者。朝から晩まで厨房で素材と戯れている。ふと気が付くとまわりの情勢が見えなくなる
こともある。好きな道だからグチを言いたい訳ではない。料理に対して他人の意見を聞きたいのかと問われたら
別にそんなつもりはないねと答えるでしょう。
じゃあ何故?・・・何故かな・・・。楽しいから?・・・・もちろん。
連帯感があるのです。同じ所を見て、そこ近づきたいと努力しあう。痛みも喜びも分かり合える。
伊勢の街と言う括り(くくり)の中に点在するキラ星のようなレストラン。

三重県でも特に伊勢地区は、イタリアン、フレンチのレストランがひしめき合っています。
人口は、増加しないのにレストランは、増える。
洋食を、特に専門店でのそういう料理を好んで食べる方の絶対数が、すでに一定しているとすれば、
間違いなくお客様の争奪戦を展開しているのかも知れません。
正直、お客様が少ない日は他店のことが気になったり、自分を慰める日もあったりすることはあります。
そういう意味では、確かに競争相手と呼ばざるを得ないのかも知れません。
しかしライバルと言うのは、しのぎを削りあうもの。相手を蹴落として自分だけがテープを切るんじゃない。
デッドヒートを繰り返して自分も向上してこそレースは面白いし観客も増える。
料理人としての我が人生を支え、もっともっと進化して行くためにも、なくてはならない相手がライバルなのだと
思います。
あいつにだけは、勝ちたい・・・と歯を食いしばって努力して一番になっても地方のレストランでは意味がない。
しかも対戦相手を知らずして参加するレースなんて面白くもない。
相撲でも、サッカーでもライバルとは、相手を知ったうえで、がっぷリ四つに組むもの。
僕たちはライバルと呼ばれたいためにも相手をもっともっと深く知って尊敬する。手の内を見せながらもお互いにどんどんレベルアップして行きたい。
そして実力が底上げされれば、僕たちの料理を支えてくれるお客様が、もっと増えるかも知れないんですから。
なんて言いながらも、本当の動機はね、ただ楽しいんです。ワクワクするんですよ。
こんな気持ちは、今までちょっとなかったです。

例えば、10時半に集まりがあるとする。
お客様の予約時間はバラバラだ。オーダーストップまぢかな入店のテーブルなら、最後のコーヒーをお出しすると
11時になることもあります。肉を焼いて10時。デザート出して10時20分。
僕は幸い誰かスタッフが片付けてくれるけど、洗い物は戻ってきてからやるよ!なんて飛び出してくるシェフも
いるんですよ。

初めて一同に集まった夜は忘れもしません。オステリア・ラブラ2階。三々五々と集まるレスランのシェフたち。
もちろん以前からの顔見知りですが、まさか連中と一緒にワインが飲めるとはね。夢にも思いませんでした。
次々とワインボトルが空になり、親密度が、深まっていく。それぞれに矢面(やおもて)に立っている人たちは修羅場をくぐり抜けてきていますね。聞き上手で話し上手。
会話を楽しみながらも周囲をうかがい、退屈している人には、そっと近づき話題を提供する。
相手の意見をちゃんと聞いて、迎合できない時にはユーモアを交えながらも堂々と主張する。
年上の相手には敬意を払い、年下の者にも分け隔てをしない彼らを眺めていて、僕は頼もしい気持ちでいっぱいだったんです。
こんなに素敵な連中と一緒に、何か出来ないだろうか?
それぞれが、それぞれの持ち場で一生懸命生きている中で、せめて一年に一度でも仲間が集まって盛大なお祭り
がしてみたい。
そんな酒場での夢物語が、みんなの意見でまとまりました。

僕達は料理人です。歌も歌えないしバイオリンも弾けません。練習して徒手体操を披露したところで誰も見に来てはくれませんよね。でもね、料理ならどうですか?お菓子もある。美味しいワインや食べ頃のチーズを揃えること
だってお茶の子さいさい。思い浮かべてみてください。
秋空の下、17人のシェフ達がひとつの広場に集まるんですよ。
焼き菓子やシュークリーム。プリンに生ケーキ。アイスクリーム。クレープもある。
秋だから、どこかのシェフが焼き栗なんかを企んでいたりして。はてさて僕は何をしようかな・・・。
炭をおこして骨付き仔羊でも焼いちゃうか、それとも牛の胃袋を煮込んでお客さんを驚かせてやるか・・・。
パエリアをやりたいなんて誰かが言ってたなあ。パニーニ、サンドイッチ。伊勢海老クロケット。・・・生唾ゴクリ。

それでは今度、僕が想像する番。さっそく目を瞑りますね。

トックを被ったシェフ達が見える。お客様のさんざめきの中をヒラヒラと飛び回るギャルソン。
優しく笑顔を浮かべたマダムたちが見ている視線の先には、キッシュを頬張る子供たち。
目を丸くしてコックさんを見上げている。つぶらな瞳はキラキラと輝く。美味しい?魔法に見えるかい?

目を開けた僕。秋までが待ち遠しい!

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