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愛する寿司職人へ(07.10.28) フランス料理の次に好きな食べ物は?と問われたら僕は迷わず「寿司です」と即答する。 それではフレンチの料理人以外でやってみたい職業は?と聞かれたら小学生のように、はにかみながらも 「寿司職人になりたい。」と小声で言うかも知れません。 僕は、それほど彼らの握る寿司を愛していて、その閉ざされた世界を羨望の眼差しで覗いています。 素材、米、酢、調味料。たったこれだけの持ち物で、人々を魅了し感動させてやまないのですからたいしたものです。 綺麗に掃除された玄関の、のりのきいた暖簾をくぐり、磨きこまれたカウンターの前に腰掛ける。 働き過ぎている自分達へのご褒美の気持ちもあるが、やはり生の素材の味をしっかりと舌に叩き込みたい。 職業柄しょうがないことですが、どのジャンルの飲食店に入ってもすべてが仕事の延長かなと思ってしまいます。 こはだの新子を初めて食べた強烈な衝撃は今でも忘れません。 寿司一個に新子2尾。小さい小さい。僅か4〜5cmの7月の宝石。頭を落として開いて中骨を取り小骨を抜く。 塩をあてて酢で洗う。 寿司職人は経験と鍛え抜かれた包丁の技で、いともた易く小魚を一つの芸術品に変えてしまうのです。 僕はと言うと目の前に置かれた新子の美しさにしばし目を奪われ、ため息をつき、大事に口にほお張る。 味わいは、ソフトで純粋。 雑味なく、魂が浄化されていくような気がして言葉が出ず、しみじみと食べてしまいました。 酢が胃を心地よく刺激して食べるほどに食べたくなる。 そんな寿司が主(あるじ)の集めた趣味の良い器に乗せてあったりしたら、もう僕は寿司ワールドにどっぷりと 浸ってしまうしかありません。備前焼に注がれた焼酎を飲む。 確かにまろやかになったように感じるのは気のせいなのでしょうか。 煙草のけむりのないカウンターは、寿司を楽しむのに最高の舞台です。 僕は環境を取るか、寿司を取るかの選択なら躊躇なく煙のない環境の場所に座りたい。我慢したり注意してお互いに不愉快にはなりたくないのです。 極端な話し、それなら回転寿司の禁煙カウンターのほうが心が落ち着きます。 その点、すし福なら安心。寿司は美味いし店長の笑顔には、心底癒されます。これで回転寿司だと言うのですから驚きです。せっかくあの鯖を食べるのにプーンと煙草の臭いがやって来たらガッカリですからね・・・。 フランスにはカリテプリと言う言葉があります。クオリティとプライス。素材に対して納得いく価格。お値打ち感。 そう考えると、すし福に行列ができるのはしごく当然のことなのでしょうね。 それはそうと先日、久しぶりに津の大寿司に行ってきました。 この店の良いところは、よそよそしくないことです。職人達は、気軽に声を掛けてくれるからリラックスして楽しめます。 3年半前に美術館店立ち上げの帰りに少し寄ったことはありましたが、腰を据えて食べるのは、 15〜6年ぶりですかね。以前はよくお邪魔してたんですよ。とにかく勉強させていただきました。 ホヤは、ちょっとでも鮮度が落ちるとアンモニア臭いものなんですが、ここで食べたホヤには度肝を抜かされたし、 抜群の美味しさです。 そして今でこそ、さんまの刺身は一般的ですがあの当時から当たり前のようにありましたよ。 一番驚いたのはかつおでしょうか。通いだした頃なので20年近い前です。 一般的にカツオは一本釣り。バンバン釣って甲板に叩き落されて船倉に滑り落ちていく。 どれだけ新鮮でもカツオの身には血がまわり、身はべちゃっとして鉄分臭い味はさけられません。 その味に親しんだ人にならソウルフードなんですが、僕は当時から不思議でした。 (と、言いながらタタキも茶漬けも食べるんですけどね) 何故絞めないんだろう・・・カンパチや鯛なら大事に扱って絞めて神経を抜くのに・・・と。 鰯のような小魚ならしょうがないけど、1キロ以上のカツオです。美味しいカツオ、泳いでいたカツオの身には本来、 血は回っていないはずです。そんな疑問が解けたのは、大寿司で僕の夢のカツオに出会えたからなんです。 聞いたら、専属の漁師さんと契約しているらしい。慎重に釣り上げられて大事に絞められて届くのだそうだ。 これ20年も前の話。今で言うけんけんかつお漁で舟を走らせて大事に釣り上げられたかつおだったのでしょうね。 どの素材もこのような物語で一杯でした。本当に美味しくて、僕は一流の味をどんどん吸収していったのです。 残念なのは途中からむこうの定休日がこっちと同じになって通えなくなってしまったことです。 そして、昨日の話。ちょっとした祝い事があったので、意を決して大寿司へ。 7時にカウンターを予約して・・・ちょっとドキドキ。 懐かしい親方の笑顔に迎えられてカウンターに座る。おっ・・・カウンターの中に、永田さんの顔が見えた。 津市に開いた彼の店には2回ほど行ったことがあります。綺麗で美味しい寿司を握る職人です。 昔、僕が大寿司に通っていたときは、やんちゃ顔のいけいけ若い衆だったんですよ。 親方のたっての願いで復帰して本店を任されるんだとか・・・。 そして彼の笑顔と元気は何故か大寿司にこそふさわしいと思いました。 焼酎を運んでくれた若い衆は、大阪屋の息子です。この坊主は昔から知ってますけど元気一杯な奴でね、 初めて職場での顔を見ました。それはそれは凛々しい表情で男らしく、闘いの目をしたサムライのよう。 残り少ない修行期間をまっとうしろよ!そして、大阪屋の大将よっちん!将来が楽しみな息子だったよ。 さて、寿司いきますか。二人で2個。つまり一個づつね! 鰯、アジ、こはだ(コノシロより、ちょい小さいナカズミかな?)サバ、ヤガラ昆布じめ、玉子、穴子、きゅうり巻き、 ・・・なんか、僕の寿司っていつも地味なんですよね・・・。握るは若い職人で親方は常にホールに居ました。 でも、目をつぶり食べると間違いなく親方の寿司。うーん・・・。なんでこんなに旨い!うーん・・・言葉にならない。 寿司は本当に面白いですね。 大阪屋も九十九曲(つづらくま)も、すし福も寿し萬もはま崎もみなみ草も最近出来た伊な勢もみんな美味しくて、それぞれの個性がある。旅先で食べても東京の有名店に行っても正直、彼らの寿司が恋しくてたまらない。 さて、ひるがえって大寿司。松田さんの寿司。15〜6年の間に僕自身と僕を取り巻く環境は随分変化しました。 久しぶりに松田さんと話しをしたなかで、僕は新たな目標が出来て武者震いをしています。 大勢のスタッフを抱えて店を切り盛りするかたわら、寿司を広めるために世界中を飛び回る。 優秀な弟子を育て独立させ、他店がオープンしても大寿司は、大寿司。ゆるぎない名声を持続させ見事な寿司を作り続けている。
そんな親方なのに謙虚な姿勢には頭が下がります。店で働く職人や若い衆の目の輝きも美しく、彼らを束ねる永田さんは頼もしいといったらない。親方と話した中で、新店の話を聞きました。 3年は、本店に戻らない覚悟だそうだ・・・と言うことは亀山に行けば松田さんの握る寿司が食べられる・・・。 親方の目の鋭さ。きびきびとした動作。いつまでもいつまでも永遠であって欲しいと願います。